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ある若い女性薬剤師の物語・9
これは彗星のように輝やきながら飛び去った彼女の人生の軌跡をたどる物語です。
その9、仲間の応援
入院したその日のうちに、元の同僚の薬剤師さんたち7,8人が集まってくれました。
また、当時一緒にチームを組んでいた看護師長や医師たち、多くの方が激励に訪れてくれました。
退職して12,3年になるというのに、当時の仲間たち、
ほかの病院に移った人達も来てくださいました。
職場の仲間と言うのは競争相手でもあります。
その人たちが集まって千羽鶴を毎日折ってくださる姿に、
当時の職場の雰囲気がよかったのだろう、と思われました。
Mは幸せな人だと思いました。
しかし日本でも有数の最新の技術を誇るこの病院でも、
祈るしかほかに手立てはないのだろうか、と思いました。
入院したその日も、外で泣いている親しかった先輩薬剤師の姿を見かけ、
覚悟を決めたものです。
本当に病院を挙げて応援してくださいました。
どんなに感謝をしてもしきれません。
しかし、このような結果になってしまって、みなさんさぞ力を落とし、
虚無感にさいなまれたことではないでしょうか。
娘が倒れた原因が分かった時、だれも医師を非難する言葉を出しませんでした。
彼は彼なりに一生懸命診察してくれたはずですから。
私は生理の出血が続いていた時、
子宮内膜に傷がついて、そこに大腸菌などがつき細菌の細胞壁についているエンドトキシンが、
体内に入り、エンドトキシンショックを起こし敗血症になったのではないか、と考えました。
貧血で免疫も落ちていたのかもしれません。
不妊症でエンドトキシン月経血を調べる検査があります。
子宮内にエンドトキシンが存在する可能性は十分考えられたはずです。
入院した板橋救命救急センターの医師は
「婦人科では細菌で命を落とす人が多い」とおっしゃっていました。
私は専門家ではないので、エコーでどの程度詳しく判明するのかわかりません。
医師がエコーで見たとき、月経血と膿を見分けることは難しかったのだろうか。
激しい痛みにどうして婦人科以外の原因を疑わなかったのか。
疑問を抱かなかったことが、Mの死につながったのではないかと思います。
疑問を持ってほかの検査をしていれば、細菌や化膿があることが分かったと思います。
あるいは診察当日は異常がなくても、細菌が増える可能性があり、
命の危険もあるかもしれない、と伝えてくれたら対処の仕様があったかもしれないのです。
彼に対してそれだけが悔やまれます。
医師個人の技量だけに頼らないで普遍的に診断、治療ができるように
医学がもっともっと進歩してほしい、とその時私は切に願いました。
高度な文明をもった人間が、インフルエンザや肺炎などのウイルスや細菌のような、
小さな生き物に、あっけなくやられてしまうことに、
まだまだ医学は発展していないことに思い知らされる思いです。
* *次回は「その10、痛みは体の信号」です。* *